先入観「オソロシイ音楽」(現代音楽/フリージャズ)の楽しい出会い
2014年現代音楽某重大事件において、すっかり有名になった作曲家/ピアニストの新垣隆さんが、バリトンサックスの吉田隆一さんとのデュオで製作したアルバムです。
演奏は、録音スタジオで打ち合わせを行いながら、「この曲はこのように演奏しよう」といった取り決めにもとづき録音したもののようです。
さて、バリトン・サックスは中低音粋を担当する関係で、低音部の比較的ゴリゴリした音をどのように扱うかによって音の風景は変わるのですが、音楽性とマッチすれば、絶妙な響きを奏でます。
乱暴に分類してしまえば吉田隆一さんは、「フリージャズ」方面の方で、新垣隆さんは「現代音楽」方面の方ですから、どちらも先入観としては「オソロシイ音楽」となりますが、たまにフリーキーに暴れる場面はあっても、全体的には、新垣さんのピアノがときにはソフトに、遁走風に、ときには剽軽に絶妙のデュオを奏でています。
カバー曲として取り上げられた4曲のうち、2曲が典型的なジャズスタンダードナンバー(「エンブレイサブル・ユー」と「ソフィスティケイテッド・レディ」)で、1曲が武満徹の「明日ハ晴レカナ曇リカナ」となっているのが、なかなか笑えます。
新曲が必要ない時代なので、親しまれている旋律をどのように扱っているかというあたりの興味でリスナーはCDを買うわけですが、よくありがちなのが、「ヴォカリーズ」(ラフマニノフ)やら「イマジン」(ジョン・レノン)やら「バードランドの子守唄」やらが収録されている状態で、「またですか・・・・(嘆息)」となるところですけど、その心配はありませんでした、
「明日ハ晴レカナ曇リカナ」は、軽妙なジャズ風の演奏で、なかなか新境地でした。
あまり深読みとか、ネタ探しとかをするアルバムではないと思いますが、音楽が生まれ出る現場に立ち会っている感慨が伝わってくる、面白いCDです。
<ジャズピアノとそれ以外のピアノ演奏に関する付記>
新垣さんのピアノは、「ジャズピアノ」には該当しないようです。
では、どういうのがジャズピアノかというと、すべてではないのでしょうけど「鍵盤がちゃんと下まで降りていないのが "カッコイイ"ジャズピアノ」だという意見があって、だから、クラシックのピアノ・ソナタは「ピアノの音ではない」ということになります。
リスナーにとっては、それがカッコよければ あるいは美しければ、どうでもよい話だと思いますが、50年くらい前の妙な棲み分け「クラシック」「ジャズ」も、今にして思えば、どうしてあんなにいがみ合っていたのやらという思いです。