(コンサート見聞録)ペンデレツキ/ショスタコーヴィチ/ストラヴィンスキー(札響第617回定期演奏会)
春はまだ遠い3月の札幌で怖い曲ばかりのラインナップ
東京基準ではすでに春の始めにもかかわらず、札幌では時候の挨拶が「初春の候」ではなく「解氷の候」になる3月16日。みぞれ降る寒い中、札幌キタラホールまで掲題のコンサートに足を運んできました。
演奏曲目は次のとおりです。
ペンデレツキ「広島の犠牲者に寄せる哀歌」
ショスタコーヴィッチ「ヴァイオリン協奏曲第1番」
現代音楽とはなにかという難しい定義を脇に置けば、それぞれ20世紀中盤の前衛音楽(トーンクラスター技法による)の古典、ソビエト現代作品、20世紀初頭の最前衛作品となります。「春の祭典」については、その受容史を振り返れば1970年代までは現代音楽の部類に入れられていたはずです。
ちなみに、座席は一番安いオーケストラの後ろ席でしたので、指揮者がどんな風に振っているか、打楽器がどんな動きをしているかなどがよく見えるという利点もありました。
指揮者とソリスト
このお二方です。
演奏について
ペンデレツキ「広島の犠牲者に寄せる哀歌」
現代音楽屈指の「怖い曲」ということで、こちらも相当緊張して臨んだわけですが、「あれ?そうでもない」というのが第一印象でした。これは弦楽器だけなので音圧がそれほどでもないからということのようです。
むしろ弱音になってから、「来るぞ来るぞ・・・」という期待感に違わず
・弦楽器のボディを叩く「バタバタバタバタ」という音
・弦楽器のピチカートの連続「ブチブチブチブチ」という音
・弦楽器の駒の下を擦る「グキキキキキキ」という音
これらが寄せては返すように繰り返され、最後は人間の呻き声のような分厚いクラスターに繋がっていって終わります。
ウルバンスキ氏はタクトを持たずに指揮し、両手でなにかを掴んだり離したりするような動作に終止していましたが、これはそれぞれのパートにキューを出しながら音量と持続時間を指示しているのだと思います。
オーケストラの後ろ側の席ということで、「まるで羊羹」と形容されるトーン・クラスター技法曲特有の黒い帯状の楽譜を見ることができました。
札響にとっては今回が初演らしいのですが、「札幌初演」ではないようなので、おそらく毎年開催されるPMFフェスティバルの総監督で来ていたこの曲の作曲者であるペンデレツキ氏がPMFオーケストラで演奏していたのだと思います。
ショスタコーヴィッチ「ヴァイオリン協奏曲第1番」
全部で4楽章からなる相当大規模なヴァイオリン協奏曲です。第3楽章の終わりに長大なカデンツァが置かれて、そのままアタッカで第4楽章に突入して熱狂のうちに終わるのですが、第1楽章の沈鬱な楽想から、第2楽章に入って次第に音の動きが慌ただしくなって狂ったように激しいスケルツォに至るときの痛快感は実演で聴くとたまらないものがあります。
同じく、第3楽章の沈鬱な響きから長大なカデンツァを挟んで再び熱狂歓喜の第4楽章が終わると、客席から一斉大ブラボー大拍手が起きました。お義理ではなく本当に熱狂していたようで、何度も呼び出された末、アレクサンドラ様が片言日本語でアナウンスの後、バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番から1曲(どの曲だったか失念)アンコールで演奏しました。
休憩を挟んで今回のメインプログラムです。予想はしていましたが大オーケストラによる全楽器の咆哮というものは、実演で聴くと大変な迫力でした。
曲はよく知られていると思いますのでいちいち書きませんが、特に大きなテンポの変化はなく、変な表現ですがノッた感じで聴ける演奏でした。
びっくりしたのは、冒頭のファゴットの高音ソロの部分の出だしにウルバンスキ氏は一切キューを出さずに*1、ファゴット奏者が勝手に始めて他の楽器が入りだす頃からなんとなく指揮を開始したことです。リハーサルだとまた違うのかもしれませんが、本番では全体的にあまり大振りをしないで、右手で拍子を取りながら、左手で指をヒラヒラさせている不思議な指揮でした。
終結部の「いけにえの踊り」では、ウルバンスキ氏ご本人が踊っているような感じで、時々腰をくねらせながら、まるで「はい。これは難曲ですけど暗譜でも楽勝ですよ!」と言わんばかりの指揮ぶりでした。
終結部。ピッコロの♪ヒャラララの導入なしで*2一気にズドン!と終わりました。これも大ブラボー大拍手
拍手が鳴り止まず、3回指揮者を呼び出してもまだ鳴り止まず、まさか春の祭典のあとでアンコールをせがむのかと恐ろしくなりましたが、会場側が照明をつけて強制終了と相成りました。
気がついたことや疑問点など
(1)チェレスタの音はびっくりするくらい小さい
ショスタコーヴィッチのヴァイオリン協奏曲では2台のハープとチェレスタが同じ音型を奏でるのですが、ほとんどハープの音しか聴こえませんでした。
(2)トライアングルの音
トライアンゲルの三角形頂点近くを叩くとチューブラー・ベルズのような音がするようです。
(3)シロフォンとマレット
ショスタコーヴィッチのヴァイオリン協奏曲で使われるシロフォンでは相当硬いマレットを使っているようで、激しいスケルツォの中で際立って響いていました。
やはり相当大変な高音であるらしく、演奏終了後にファゴットパートがソロを取ったそ奏者に「よかったよかった!」という感じで握手していました。
ファゴットの最高音域を伴うものとして最も有名な曲はやはり、ストラヴィンスキーの「春の祭典」であろう。
— 教えて!城谷先生 (@Teacher_Joya) January 23, 2017
この曲の冒頭、ファゴットでソロが奏され、レの音が登場する。ファゴットの最高音はこの短2度上のファなので、かなり高い。しかし今ではどの奏者も吹けるよう訓練されているので、問題ない。 pic.twitter.com/bUC5V3XMkt
まとめ
定期演奏会のためか会員の方々が多かったようで、退屈そうにしている人もフライングブラヴォーをする人もおらず、マナーの良い聴衆に囲まれて久々に良いコンサートを聴かせていただきました。