述而不作 いにしえの未来

占い師の見てきた世の中を語ります 遥か古代から続く終わりの始まりを見据えて

【読書感想文】平成史4冊 斜め比較読み

今上天皇のおことば(退位について)が発せられてから、出版業界はここぞとばかりに「平成史」を冠する本を出版し始めました。

相当たくさん出ているようですが、こと昭和史についてはこれまでも、そしてこれからもずっと研究の対象になっていくと思う一方、果たして平成史がこれからも研究の対象になるのかどうかは甚だ怪しく、「失われた20年(追加10年で30年)」の記録を書くのは執筆者諸氏もさぞや気が重かったことかと思います。

前振りはこれくらいにして、4冊読んでみましたのでその感想を書きたいと思います。

1 保阪正康著「平成史」

平成史 (平凡社新書)

平成史 (平凡社新書)

 

 

保阪正康といえば、半藤一利と並んで「昭和史」の研究で名高い人で、しかも平明な記述で、広く一般向けの書物も書いています。

保坂氏の視点はやはり昭和天皇から今上天皇への践祚と、今上天皇の足跡を中心とした内容になっていて、特に沖縄を含む戦跡への訪問、災害被災地を中心とする国内各地への慰問を通して、象徴天皇の具体的なあり方を身をもって示されたことを特記しています。

その他、政治経済文化についてはあまり多くを書いておらず、平成の重要なトピックであるはずの女性の活躍についても言及がないですが、これは保坂氏の世代(戦前生まれ)を考えるとやむを得ない面もあるでしょうし、もともとそうしたことの専門家でもないからだと思います。

ただし、1995年の阪神・淡路大震災とオウム地下鉄サリン事件(これに加えて戦後50年のいわゆる「村山談話」と翌年の小選挙区制初の選挙を含む。)による国民意識の変化と、その後の政治の劣化について多く意見を書いています。

面白いのは、1995年頃から「自虐史観」なる用語が氾濫して、戦前を「悪」と捉える歴史観を否定する論者が増えだして、保坂氏もその一人としてまるで国賊扱いされだした話を憤慨とともに紹介しています。

他の論者にとっても、「1995年」「小選挙区制」「雇用崩壊」などは平成の重要な論点として認識されていて、おそらく令和の御代まで影響を及ぼすでしょう。

2 佐藤優/片山杜秀 「平成史」

平成史 (小学館文庫)

平成史 (小学館文庫)

 

 こちらは対談集です。佐藤優は元外務官僚で投獄経験ありの神学者片山杜秀歴史学/社会学と音楽評論を同時にこなす才人。佐藤氏はウルトラQ、片山氏はウルトラマンを見て育った典型的な戦後生まれの新人類第一世代で、あまりアカデミズムに流れない気楽な対談集となっています。

対象とする分野が広いので、小泉元総理のスローガン型政治「小泉劇場」の評価から、「東京タラレバ娘」のように夢を追い求めていたら”何か騙されていた"ことに気づいたアラサー女性という一種の若者群像や、民主党政権への期待と失望まで、網羅すべきことはしっかり網羅しています。

特筆すべき記述としては、3.11を「カイロス」(運命が劇的に転換する"刻")として、日本人は目覚めるのではないかと期待していたら、すぐに東京オリンピック騒ぎに関心が移ってしまい、もはや福島原発事故は無かったことにしてしまおうという風潮になったということです。

「政治の劣化」については、官僚出身の政治家が減ってもっぱら世襲議員ばかりになってしまい、官僚に使われるだけの木偶になってしまったこと、小選挙区制と比例代表制の導入は、健全な二大政党制によるチェック機能を働かせるのではなく、むしろ一党独裁に近くなってしまい、ファシズムへの突入も杞憂ではなくなりつつあるということが挙げられています。

一つのテーマを深く掘り下げて考察するというよりも、年表を見ながら平成を回顧して、楽しく鼎談しているという趣の本なので、気楽に読めるのがメリットではないかと思います。

 3 小熊英二編「平成史」

平成史【増補新版】 (河出ブックス)

平成史【増補新版】 (河出ブックス)

 

 「1968」や「民主と愛国」などの大著で知られる小熊英二氏が中心となって、各界の論客にそれぞれの分野を受け持ってもらって、平成の歴史をまとめようという試みです。

冒頭に小熊英二の総論があって、そのあと「政治」「経済」「地方と中央」「社会保障」「教育・子ども」「情報化」「外国人」「国際環境」の諸分野に分かれて、論述が行われています。

平成に起きた諸変化の多くは、令和の御代にも引き継がれ、それらがどう定着していくのかが、今後の課題になるだろうと思いますが、とにかく読み応えのある一冊なので、ぜひ手元に置いておきたい本のひとつです。

4 平成トレンド史

平成トレンド史 これから日本人は何を買うのか? (角川新書)

平成トレンド史 これから日本人は何を買うのか? (角川新書)

 

こちたは、元博報堂の広告マンがトレンドの移り変わりのみに焦点を当てて書いた、比較的軽い読み物です。

笑えたのが、平成初頭のジュリアナお立ち台ギャルと、平成末期のカフェでお互いのLINEに夢中で会話のないカップルの比較挿絵です。

若者は騒がなくなったのかといえば、そういうことはなく俗称「パリピ」と呼ばれる人々が真っ先に流行のお祭りごとに飛びつくことはあるものの、むしろインスタ消費と呼ばれる写真中心のリア充アピールに重点が移り、それも疲れ果ててしまっているのが実情のようです。

とにかく、携帯電話の登場以降あらゆる消費がそちらに集約されていき、iPhoneの登場で、もはやスマートフォンさえば生きていける人たちが多くなってきましたが、さすがにこのブームも10年後に生きているのかといえば、雲散解消しているかもしれません。

「これから日本人は何を買うのか」というサブタイトルが付いていて、著者はもちろん私にもわかりませんが、私の身近にあったエピソードを紹介してみますので、何かのヒントになればと思います。

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1996年生まれのとある若者。プロフィールとして「趣味は音楽鑑賞。特に最近モーニング娘。"という"ユニットにハマっています。」

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モーニング娘。の全盛期はミレニアム前後ですから、彼らはリアルタイムで知らないのは当然で、純粋に音楽として良いと思ったから聴いているのでしょう。

これは、60年代に女の子のアイドルバンド扱いだったビートルズが、その時代をリアルタイムに知らない世代、つまり1970年代以降に青春を過ごした人々がレコードを通して神格化していったのと同じ現象です。(モーニング娘。が神格化されるかどうかは不明ですが)

いきなり論理が飛躍しますが、こういうことを考えてみると、令和の時代は平成の間に生起した雇用不安や少子高齢化の深刻化などの問題を抱えつつ、その実、昭和とあまり変わらない、あるいは中途半端に昭和に戻っていく世の中になっていくのではないかと思っています。

または、果てしなく問題を先送りしたまま、日本は滅びていくのかもしれませんが、いずれにしても、これからの国家運営は若い世代がやっていくのですから、くれぐれも老害と言われないよう、まずは自分が気をつけようと思っています。